YOMIKO NOW
2026.10.05
Loftwork Conference 2026 Re:Creation「市民の感性が、都市の価値に変わるとき」登壇レポート 「なんかいい」をロジックに変える 感性とデータで描くこれからの都市戦略
<登壇者プロフィール>
小関 美南
株式会社読売広告社 コミュニティクリエイションビジネス局 都市生活研究所
CIVIC PRIDE®ポータルサイト編集長
読売広告社に入社後、マーケティング部門を経て都市生活研究所にてR&Dに従事。『CIVIC PRIDE®ポータルサイト』編集長として全国各地を取材しながら、まちづくり関連イベントや公官庁主催セミナーに登壇するなど、シビックプライドを親しみやすく編集・発信している。現在はシビックプライド・プロデューサーとしてプロダクト開発や企業との共創プロジェクトの創出など、シビックプライドを社会実装するためのアクションにも注力している。
船橋 俊一氏
株式会社大林組 理事 本社営業総本部 担任副本部長 スマートシティ推進室長 一級建築士
1992年株式会社大林組に入社。設計本部を経て、2004年大阪本店 大阪都心再生室にて、うめきた開発(グランフロント大阪)を担当。その後、2期開発(グラングリーン大阪)や未来医療国際拠点(中之島クロス)、大阪・関西万博テーマ事業パビリオン等のプロジェクトを推進。現在はスマートシティ事業を中心にデータ活用による新たなまちの在り方を探求している。
小島 和人(ハモ)氏
株式会社ロフトワーク プロデューサー / FabCafe Osaka 事業責任者
都市と社会のあいだで「感性」を手がかりに、都市や組織の関わり方を探るプロデューサー/アーティスト。自身の思想であるHarmonism(ハモニズム)を背景に、都市体験を感性から読み解くSensibility Urbanism(感性都市論)を提唱。さらに、都市の体験価値を可視化する指標としてまち感性指標(Machi Sensibility Index)の研究と実践を行っている。
まちづくりに「感性」が問われる時代
「なんかいい」「また来たくなる」——まちについて語るとき、そんな言葉を耳にする機会が増えてきました。人口動態や利便性などでは説明しきれない「心地よさ」がまちづくりを左右する時代。形や手触りのない「感性」をどのように捉え、まちづくりに生かしていけばいいのでしょうか。
この問いを核に据えたトークセッション「市民の感性が、都市の価値に変わるとき〜「なんかいい」を戦略にする、まちづくりの新たな軸」が、2026年6月25日、ロフトワークの主催するビジネスカンファレンス「Loftwork Conference 2026 Re:Creation」の一環として、ロフトワーク 渋谷オフィスで開かれました。
このセッションは、ロフトワークの小島 和人氏がナビゲーターを務め、都市開発の最前線に立つ大林組スマートシティ推進室長の船橋 俊一氏、そして当社コミュニティクリエイションビジネス局の小関 美南がゲストスピーカーとして登壇。
船橋氏は大阪・うめきたの大規模開発などを手掛け、現在はスマートシティ推進室でウェルビーイングを軸にしたまちづくりに取り組む立場から、小関は「CIVIC PRIDE®ポータルサイト」の編集長としてサイト運営をはじめ、さまざまな企業とまちや場づくりのプロジェクトを推進している立場から、意見を交わしました。
セッションの模様をレポートします。
まちに対する多様な「主観」を捉えるアプローチ
セッションは満席となる盛況ぶり。冒頭に「今回のセッションは感性という抽象度の高いテーマにもかかわらず、これほど多くの人が集まったのは世の中の変化の兆し」と小島氏が語ったように、会場からはまちづくりの現場で「感性」というキーワードへの関心が急速に高まっていることが感じられました。そして小島氏が「感性を戦略にするまちづくりというテーマを、それぞれの実践事例から紐解いていきましょう」と投げかけ、セッションが進みました。
最初に小関は、この3年間、全国各地のシビックプライド事例の取材を重ねた経験から「まち」の形が人によって違うことを実感したと話します。
「まちづくりでは『〇〇市』や『〇〇駅周辺』といった枠組みで区切ってしまいがちですが、行政が引いた境界線と、住民の心の中にある『まち』の輪郭は、必ずしも一致しません。 ある人にとっては散歩できる小さな生活圏が自分のまちであり、またある人にとっては川の向こう岸は見知らぬまちで、手前側こそが自分のまちだという意識を持っているかもしれない。そんな一人ひとり異なる『まち』への思いを言語化し、可視化していくこと。それを、CIVIC PRIDE®ポータルサイトの編集を通じて続けてきました」
小関 美南
ただ、まちへの感性は、多様であいまいであるからこそ、都市戦略に落とし込みにくい側面があります。小関は「住民のみなさんが“いいまちにしたい”という思いで活動に励んでいても、何がどう良くなったのか、その効果を示す指標が乏しいために行政の理解が得られず、活動が長続きしない――。取材ではそんな悩みを伺うこともありました」と振り返ります。
それなら、まちに対して人が抱く感覚そのものを指標にできないのでしょうか。そんな問いに対して小関は「当社の研究チームで開発した『まちインサイト5指標』は、その答えのひとつだと考えます」と示しました。
この指標はまちで感じる感性を、「主人公体験(当事者意識)」「自己更新性(成長・刺激)」「ストーリー性(地域の物語)」「他者承認(外部評価)」「誠実性(安心・包摂)」という5つの視点で測定したもの。この5つの指標を通じて「今のまちへの評価(現実)」と、「こうあってほしい理想のまち(理想)」のギャップ(=ニーズギャップ)を可視化したことが、この指標の特徴でありユニークな点です。
「理想と現実の二つのレーダーチャートを比較すると、『このまちの住民は、歴史やイベントには満足しているけれど、もっと自分が参加できる主人公体験を必要としている』といった、新しい視点が浮かび上がります。言葉にはできていないけれど、住民が心のうちでまちに求めていること。それがまちインサイト5指標で浮き彫りになることで、自治体や企業は『次に何をすれば本当に住民にとってもまちにとっても幸せなのか』がはっきりと分かるようになります」と小関は説明します。
「この指標ができたときは、これだ!と本当にワクワクしました。市民の感性に寄り添い、目指すべきまちのビジョンを行政と市民が共有していくことで、新しい都市戦略が生まれるはず」と期待を込めます。
都市の価値は「積分」で測る。データからウェルビーイングを導く試み
一方の大林組の船橋氏は、効率重視の都市開発から視点を変えた、新しいまちの価値の測り方を提示しました。
「これまでの都市開発は、『単位時間あたりどれだけ稼げるか』『どれだけ多くの人が訪れたか』という、いわば『割り算』の発想が評価の中心でした。しかしコロナ禍を経て、多くの人が訪れること自体の価値は相対的に下がり、代わって『どれだけ長く、どれだけ深く関わり続けてもらえるか』が重要な価値観として浮上してきました。これは『積分』の発想です。人とまちの関わりの積み重ねによって生まれる関係性価値こそが、これからの基盤になっていくと考えています」
船橋 俊一氏
大林組スマートシティ推進室ではこの関係性価値を生み出すべく、大阪・梅田や品川などのまちを舞台に、住む人・訪れる人のウェルビーイングを高めるサービス事業「みんまち®プロジェクト」を展開しています。
プロジェクトでは同社と慶應義塾大学が共同開発した「ウェルビーイング指標」をもとに、エリアが持つウェルビーイングのポテンシャル、いわばハードや環境面の客観的な状態を評価します。また、アプリ「みんまちDROP」やウェブサービス「みんまちSHOP」を通じて、まちに関わる人たちがどんな視点を持っているのかという主観データを収集。同時にビッグデータの解析ともかけ合わせ、客観・主観の評価を重ねることでまちの強みをさらに伸ばし、弱い部分はアクティビティによる介入で緩和を図ります。品川エリアや大阪・梅田エリア、中之島エリアを中心に、取り組みが進んでいるそうです。
「このプロジェクトで想定しているのは、徒歩20分程度の身近な生活圏(ネイバーフッド)です。その範囲でデータに基づいたアクティビティを増やしていけば、それらが拠り所になって、いずれはコミュニティへと成長していく。そんな流れを後押ししたいと考えています」
二人の実践事例を受けて、小島氏は「これまでは生活者の感性が、企業のKPIや自治体の時間軸とズレているがゆえに、よいまちづくりを目指しているのにかみあわないジレンマがありました。しかし今、感性を生かし企業と生活者と共に長い時間軸の関係性を作ろうしている。これはまちづくりにおいて非常に大きな変化です」と述べました。
そのうえで、ロフトワークとYOMIKOが共同で立ちあげた「まち感性ラボ」の取り組みを紹介。「机上で指標を作るのではなく、実際にまちを歩き、言葉にならない身体感覚を捉え、それをいかに客観的なデータや指標へ磨き上げていくかというフィールドワーク、感性のアップデート実験を続けています」と話しました。
小島 和人(ハモ)氏
「感性データ」×「空間での蓄積」=これからの都市戦略
小関の「市民の感性をデータによって引き出すアプローチ」と、船橋氏の「データをもとにまちでの豊かな関わりを積み重ねていくアプローチ」。セッションの終盤では、これらの知見を重ねた先に、まちづくりの新しい視点が浮かび上がりました。
感性と都市戦略との接点を語ったのが小関です。現在、まちインサイト5指標を、企業や自治体がまちの付加価値を高めていくためのロジックモデルのなかに位置づけるべく、さまざまなプロジェクトを進めているといいます。
「まちインサイト5指標を使えば似ている波形のエリア同士の比較分析だけでなく、同タイプの自治体を選択して各項目を比較するなど、より深い分析も可能です。単に課題を示すだけでなく、住民が本当に求めている価値を具体的にまちに反映するための企画設計に使っていただけると思います」
また船橋氏は、企業や行政が作ったサービスを住民が受け取るトップダウンの構造ではなく、市民自身が自分の好きなことや小さな商いを通じて、自発的にまちの楽しさや賑わいを生み出す主役に変わっていく、そんな未来を描きます。
「幸せになれるまちづくりといっても、地形や建物はそう簡単には変わりません。だとすれば、生活する人がその場所をどう捉えるか、その視点をどれだけ多様に持てるかが重要になってきます。データを使ってまち独自のニーズを顕在化し、多様な視点の『受け皿』となるアクティビティを数多く作り出していく。お店を開きたい、イベントを開催したいという意欲的な地域住民の皆さんに機会を提供していけば、小粒だけれども幅広いアクティビティが次々と生まれていくでしょう。こうした試みが積み重なれば、やがてまちのブランドになっていきます。まちを作り運営する側は、その裏方に徹すればいいんだと思います」
感性で価値を創り出す未来へ
これまで言葉や数字で表されてこなかった「なんかいい」という感性は、都市戦略の外に置かれがちでした。しかし今回のセッションが示したのは、この目に見えない感性こそ、持続可能なまちづくりを支える鍵になるという事実です。
感性を「なんとなくいいもの」で終わらせず、データとして可視化し、住民がそのまちで求めている価値を積み重ねていく——そのサイクルをどう回していくかに、まちづくりの分かれ道があります。当社では、小関の話にもあった「まちインサイト5指標」を活用した人材育成プログラム「シビックプライドスクール for コンソーシアム」や指標をもとに地域を分析したレポートの提供など、市民の感性を可視化し、事業や都市戦略に落とし込むための具体的な支援を行っています。
感性とデータの力でまちの持続的な価値へと積み重ねていく先に、市民一人ひとりが価値創造の主体となるまちづくりが待っています。あなたのまちの「なんかいい」を、価値に変えてみませんか?
・Loftwork Conference 2026 Re:Creation :https://loftwork.com/jp/event/20260623-loftwork-conference-2026
・CIVIC PRIDE®ポータルサイト:https://civic-pride.com/
・まちインサイト5指標:https://civic-pride.com/ranking/areainsight/