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「次世代サードプレイスの潮流」研究会【第5回】
~空間がもたらす社会的な意義~ これからのサードプレイスとは?

2019.03.28

この「次世代サードプレイスの潮流」研究会もシリーズ最後となりました。これまでの4回に共通する論点としては、
◆都市における様々な空間や場が「事業主/運営者の都合(利益)や効率」だけを優先して設計~運営されるのではなく、「ユーザーのために開かれる・ゆだねられる」傾向が加速している。
◆その時に、商業は?オフィスは?ホテルは?今後どうあるべきか?
という視点でした。
2018年度の最終回となる第5回は、地域の人々と一緒に様々なワークショップを通じてつくり上げた「糸満漁民食堂」など、社会に対して建築でできることを真摯に追求し続ける建築家、山﨑健太郎氏(山﨑健太郎デザインワークショップ代表)をゲストに迎え、エディターの塩田健一氏、YOMIKOメンバーでディスカッションを行いました。

建築家 山﨑健太郎氏

神戸アイセンター「ビジョンパーク」は、いかにして生まれたか。

ホテルや商業施設とは、また異なる空間デザインの例として、最先端の医療センター内にある施設・空間の設計というご経験を紹介していただきました。ビジョンパークは、治療だけでなく視覚障がいを持つ方やご家族の「ケア」までを目指す、病院内の新しい取り組みのための場づくりでした。比較的元気な方から、自分の人生や生死について深く考えている方まで、極めてさまざまな「モード」の幅がある人々のための空間というのは、とても特殊なケースであり、これまでの設計経験と比べても特に「空間で、何ができるのか?どう応えられるのか?」悩みながらの仕事だったそうです。

ビジョンパーク

日本でも最先端の眼科医療の拠点。
そこに与えられた空間から、どのような「メッセージ」を発信するのか?
そこを利用するユーザーにとって、どんな空間が「本当に必要」なのか?
そのような問いから、空間のデザインがはじまった。

都市における、真に居心地の良い空間について。

空間として機能を規定しすぎず、「人間の自由さを、どれだけ担保できるか?」という発想が重要。都市には、本当にいろんな人がいて、障がいを持つ人、中には「死にたい」と考える人すらいるのが都市。そういう人にとっての空間の在り方も、リアルに想定できるか?は都市空間を設計する時に必要である、と山﨑氏は語ります。
その時にたどり着いたのが、ジョルジュ・スーラの一枚の絵。(グランド・ジャット島の日曜日の午後)
いろんな人が集まっているけれども、みんなが「それぞれ」に自由で豊かに、過ごしている状況が描かれており、そんなシーンがひとつの理想形と感じたそうです。

ジョルジュ・スーラ「グランド・ジャット島の日曜日の午後」

「見る・見られる」という人と人の距離感のあり方もふまえつつ、どのような状況・状態にある人にとっても「そこにいて良い」と思えるような空間づくりについて、考えた。

また、近畿大学の鈴木毅教授が行われている「居方」の研究にも、山﨑氏は大きく影響を受けたそうです。
「見る・見られる」とはまた異なる人の関係性である「見る、見守る」の関係こそが、いろんな立場の生活者にとっての都市における居心地の良い空間デザイン=都市における居場所づくり…であり、非常に重要な概念。
神戸のビジョンパークにおいても、そのような人と人の距離感や「居方」のデザインを念頭に置きながら検討を重ねていったそうです。

アクティブな都市生活者にとっての居場所づくりだけでなく、これからは「見る・見守る」という弱い立場の人の距離感デザインも重要。
多様な都市生活者にとって、本当に健全な状態でサードプレイスが登場するためには、これからはそんな概念が不可欠に

ディスカッション:これからのサードプレイスとは?

山﨑氏からのお話もふまえて、これからの都市に必要なサードプレイスの潮流について、塩田氏・YOMIKOメンバーでのディスカッションをさらに続けました。

ディスカッションの模様

(山﨑氏)
最も辛い気持ちにある患者さんの多くは、「家で一人ぼっち」でいる状況。
そんな患者さんにとって「ひとりじゃない」と思える場や公共を用意すること。それがビジョンパークであり、そういう人たちにとっての「居心地のデザイン」が重要だった。

(山﨑氏)
それは何も患者さんに限らない。たとえば、パーティでも場の中心で自ら積極的に交流を広げられる人もいるし、一方で端っこのほうで場を静かに見守っているのが好きな人もいる。人それぞれの居心地の良さ(居方)があり、排除される人がいてはならないということ。

(YOMIKO)
ユーザーが主役になる場づくりが求められている昨今、忘れてはいけないこととして「平等性・多様性」といわれるが、我々は本当にリアルに考えることはできていない、イメージできてない気がする。その点で、山﨑さんのビジョンパークのお仕事は、きわめて突き詰めてここを考えて具体化された事例だと思う。
社会的に弱い立場の人が「おいてけ堀」にされてしまう都市づくりやサードプレイスは、幸せではないだろう。

(山﨑氏)
ハートビル法のような「特殊な空間対応」が、必ずしも良いとは思わない。障がい者の受け皿となる場づくりの時に、偏見の中に押しこめてはいけない。ビジョンパークの時もいろんな実験をして、むしろユーザー達の空間対応力にびっくりさせられた。

パブリックは平等でなければ成立しない。
「サードプレイスのユーザー」に対する真摯な向き合いが、これからはもっと必要であり、より広い視野が必要となっている。

次にYOMIKOメンバーから「これからのサードプレイスとは?」「その背景としてのインサイト/社会ニーズは?」について、課題視点を共有するプレゼンテーションを行いました。

プレゼンテーション資料

(山﨑氏)
サードプレイスとは、簡単に言い換えれば「新しい公共」ということ。これまでは、いかに日本で公共といえる場所が育ってこなかったか?ということ。一方で「公共」のイメージがあまり良くない面もあった。

(塩田氏)
いままでは公共が「ハコもの」といったイメージが先行して、よくないのは確か。上(行政)から降りてくるものであり、生活者が主体となるものではなかった。それが近年になって、欧米のように民主化されつつある…ということ。

(YOMIKO)
公共の担い手が、まさに変わろうとしている端境期。でもヨーロッパもローマ帝国期などは、皇帝がインフラとして整備していたという側面もある。文化として根付き、成熟して都市生活者のものにパブリック空間がなってきた、生活者が勝ち取ってきた歴史もある。

(山﨑氏)
「これからのサードプレイス」を考えるときに、「自然発生的であること」が重要だと思う。公共の担い手は、時と場合によってさまざまだし、これからはほっておいても出てくるはず。あまり「新しいもの」として次世代のサードプレイスを位置付け過ぎるべきではないのでは。

(山﨑氏)
空間とは本来「非言語なコミュニケーションの場」。場を定義する言葉が先行して、位置づけや使われ方が固定化するのは良くない。ただ、ここで議論されているような新しい公共の在り方などの「ビジョン」を議論し、それを空間化してゆくことは、とても大事。

「パブリックな場」についての議論は、古くて新しいテーマ。
日本においては、その担い手が急激に「多様化」しつつあり、だからこそひとつの転換期にあるのは、確か。

日本人にとっての公共/サードプレイスのあり方

(YOMIKO)
日本人はすぐにルールを作って、公共の場を定義づけよう~運用しようとしすぎる面も。禁止事項だらけの公園とか。欧米の公園などでは、とても柔軟に使いこなしているケースが多いようだ。その視点からもユーザーの成熟化・リテラシーの向上が必要だし、そこにゆだねることもこれからは必要なのでは?!

(山﨑氏)
大賛成。でも公園の使い方は慣習に左右される。人間はたくましいので、ちょっとトレーニングすれば柔軟に、新しい使い方をみんなすぐにできるようになると思う。環境がユーザーを変え、成熟させる。そのためにも「場のデザイン」が必要であり、いまどきの「ホテル」や「商業施設」が公園などよりも先行して変わってきている、ということ。そうやって、どんどん生活者の成熟が加速してゆけばいいと思う。

(山﨑氏)
「ここはこういう場所だよ」と規定しすぎず、「寛容さ」を大事に空間を設計してゆくことが、生活者・ユーザーの成熟とともに益々重要になってゆく。だから「これからのサードプレイスとは?」という問いに対しても、言葉で定義・規定してゆくことは難しいのでは?!

豊かなサードプレイスが都市にもっと増えてゆくには、生活者・ユーザーのリテラシー向上も必要な条件。その向上をユーザーに促す環境として、「場のデザイン」がとても重要。

(塩田氏)
寛容で、規定しすぎない空間を設計する時に、事務所のスタッフや施主さんとはどのように議論やプレゼンをしながら進めるのでしょうか?「規定しないのに、設計する」という作業は、難しいのでは?

(山﨑氏)
そこで「居方」のイメージを根底において進めてゆく。さっきの議論でも出たように、「用途や使い方」でイメージするのではなくて、どんな風にユーザーにそこに居てもらうのか「形容詞をくわえてゆく」ことで空間をイメージし、デザインしてゆく感じ。それが、みんなの直観的な理解にもつながってゆく。

(YOMIKO)
それは空間のデザインにおいて「左脳的な、理屈で機能性を説得」する重要性よりも、「感覚的・右脳的な人間の感性」への訴えかけが重要性を増してきているということでは?それはユーザーが成熟しつつある世の中になってきたから、というのもありそう。

(塩田氏)
現代都市の空間における価値が「スペック」から「体験」の価値へシフトしてきている、という話が前の研究会でも出ていた。スペック価値を語るなら、ロジックや合理性での説明が必要だが、体験価値を生み出すには形容詞的・感性的ともいえる山﨑さんの実践しているような設計言語が必要になるということかも。

(YOMIKO)
左脳的感覚も右脳的な感覚もどちらも大事なのだが、これまで空間づくりにおいてあまりにも「左脳主義的に過ぎた」ということなのかも。

都市空間の提供価値は、「スペック」から「体験」へシフトしている。
体験価値をベースに空間開発を行うには、どれだけユーザー目線と感性で「場のあり方」をイメージできるか?が問われる。

「次世代サードプレイス研究会」これまで全5回の議論・研究のまとめ

全5回シリーズで実施してきた「次世代サードプレイス研究会」は、今回で一旦の終了となります。どのような議論がなされてきて、何が見えてきたのか?エディターの塩田健一氏によるまとめとディスカッションを行いました。

(塩田氏)
まずは、空間デザイン・設計における「大きな転換期」について。
これまで建築とは、まさに「線を引いて、空間を区切る作業」であったといえる。それが、この図のようにそれぞれの空間における用途や機能が「混ざり合う空間」としてのデザイン・設計の方向に大きく転換してきている。それにより空間をデザイン・設計する設計者は、「より大きな施設や街区としての全体視点」が求められるようになってきている。またそれは同時に、「ユーザーの能動性を引き出すという視点」でもある。

図

(塩田氏)
そのような転換期を迎えて、この研究会に参加していただいた建築家・有識者のみなさんにおいても、設計や空間デザインに際しての意識や狙いが、大きく変わってきていることが明らかになった。
それは、コクヨ山下氏の発言にもあった「空間の民主化」の流れと言えるかもしれない。

図

(塩田氏)
時代の変化をふまえると、これからの都市や空間の設計に関するステークホルダーごとの課題や役割も変わってくるかもしれない。特にポイントとなってくるのは、プロジェクトの案件に合わせて最適で柔軟な「チーム編成」と「プロジェクト全体のマネジメント」を担う存在。これまで以上に、この役割の重要性が高まるだろう。

(YOMIKO)
下記の図でいうと、「運営者」における重要性やハードル(難易度)が非常に高まっている気がする。
特に「マネタイズ」の問題。今後のプロジェクトの成否を左右するのは、この部分かも。

(山﨑氏)
まさにその通り。マネタイズの問題は、単に運営者だけの課題ではなく、より上位の位置づけでは?!
ポイントとなるのは「受益者負担」の考え方と実践。ニューヨークのブライアントパークのような、高度に成熟した仕組みを構築できるか?が、これからは問われる。
それこそが、「開かれる空間」「空間の民主化」にむけて必要なことであり、それができる「ビジネス・デザイナー」といった存在が、これからの都市空間/サードプレイスづくりに必要となってゆくだろう。

【編集後記】~2018年度5回の研究会を終えて~

今回の研究会では、まさにいまの建築・空間デザインをリードするゲストの方々と多くの議論することができ、発見と刺激に満ちた機会となりました。特に印象に残る我々の学びのひとつとして、各回のゲストのみなさまが「具体的な建築やデザイン」を考える前に、あるいはそれらと並行しながら常に「とことん、その空間を利用する生活者のことを考え抜きながら仕事を進めている」ということでした。

■都市空間が、生活者の手に戻りつつある時代

なぜ建築家や空間デザイナーが、そこまでユーザーを中心に据えて考えるのか?それは日本の(世界の)都市が歴史的な転換期にあって、様々な要因も背景に都市空間が生活者の手に戻りつつあること、都市の暮らしが大きく変化してきていることに対して、より深く関与しようとしているからではないでしょうか。これからの時代は、都市のライフスタイルを自分たちの手でもっと素敵に、面白くしてゆくための可能性が大きく開かれてゆく時代であり、我々の手に一層ゆだねられているといえるかもしれません。そう、都市に暮らすみんなが「当事者」となる時代なのです。

■そして都市の「場」が、これまで以上に人々のライフスタイルを変えてゆく

都市空間が変われば、当然そこで暮らす・過ごす生活者のライフスタイルも変わります。つまり人が空間をつくり・変えるのと同時に、「都市空間が人のライフスタイルをつくり・変える」という場と人の相互作用があるのです。デジタルな情報があふれかえる現代において、生活者はますます五感で感じられる「リアルな体験と情報」を欲する傾向も強まっています。我々のようなコミュニケーション・ビジネスに携わる者にとっても、都市における空間の変化は見過ごせないテーマとなっています。これからも都市生活研究所では、これらのテーマに関する研究と情報発信を継続~進化させてゆきますので、今後にもご期待ください。

本件についてのお問い合わせ
都市生活研究所 城
TEL:03-5544-7223

( 都市生活研究所 城 雄大)