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2018.12.19
近年ではラウンジなどの共用部を宿泊者以外にも開放して、自由に過ごせる場所を提供するホテルが増えています。ホテルの利用のされ方が変わりつつある今、サードプレイス・シーンを生み出す場所としてのこれからのホテルの役割とは何か?第3回はホテルをテーマに、「SHIBUYA STREAM EXCEL HOTEL TOKYU」の共用部デザインに携われた寶田陵(たからだりょう)氏(the range design)をゲストに迎え、エディターの塩田健一(しおたけんいち)氏、YOMIKOメンバーでディスカッションを行ないました。
日本のホテルカテゴリーで近年増えているのは、宿泊特化型ホテル。その中でも特に、ライフスタイル型ホテルが急増している。例:Moxy(東京錦糸町/大阪本町) など
いわゆる「ライフスタイル型ホテル」といえば、フロントがBARのようになっていたり、ホテル内にライフスタイルショップがあったりと、欧米のように賑やかな交流が生まれるようデザインされているが、日本人はそこに集まっていないのが現状。
今後、このライフスタイル型ホテルは日本人にとってのサードプレイスとして成熟するのだろうか?
日本人にとっての次世代サードプレイスとなるホテルはどのような場所か、メンバーで議論する。
ホテルにどのような要素があれば、人々は集まるのか?YOMIKOメンバーはホテルに限らず人々で賑わう場所の国内外の事例やアイディアを持ち寄り、ヒントを探った。
挙がった事例を大きく分類すると、「食」や「アート」をテーマに集まる場所、「本」や「サイクリング」など趣味を目的に集まる場所、「イベント」に参加するために集まる場所、「地方創生」や「自然」に触れることを目的に集まる場所など、それぞれ人が集まるきっかけをつくる空間デザインがなされていることが分かる。
(塩田氏)
「○○する場所」と機能をはっきりと分けずに、複数の要素を掛け合わせて賑わいを生むフックを用意する世の中のトレンドがある。
(寶田氏)
ホテルにはそもそも飲食・買い物・ビジネス・スパ・宿泊…といった基本的な生活の要素がすべて含まれている。賑わいを生むホテルは、そこに新たな価値を付加している。
(YOMIKO)
そのような場所で外国人など異文化と交わる可能性があるから、ホテルには「サードプレイス」から「まちおこし」まで期待が高まっているのではないだろうか。
これからのサードプレイスをつくるために必要なことは何か?寶田氏はキーワードとして以下を挙げている。
日本人が好むコミュニティー
欧米で好まれるコミュニティーが必ずしも日本人にも好まれるわけではない。
DNAや文化の違いがあるのは当然で、日本人が好むコミュニティー向けに場所をデザインする必要がある
収益を生むビジネスになる
サードプレイスとはいえビジネスにならなければ存続できない。
キーワード「日本人が好むコミュニティー」について、日本人がホテルをサードプレイスとして利用するにあたって注目すべきポイントは、交流を求める度合いによって空間デザインが異なるということ。
国内ホテルの事例では、Moxy(東京錦糸町/大阪本町)やHOTEL SHE(大阪/京都)のように宿泊者同士での交流を積極的に求めるニーズがある一方で、BOOK AND BED(池袋)のように宿泊者一人ひとりが趣味に没頭し交流を求めないニーズもあり、ONOMICHI U2(広島)やTRUNK(渋谷)のように交流したい人は交流し、交流を求めない人は交流しない選択ができるカテゴリーが存在している。
交流を求めるニーズに対しては、共通の目的・趣味をテーマにしたりイベントを開催するなどして、コミュニケーションのきっかけを作ることで日本人が自然に交流することができるようにしている。
キーワード「収益を生むビジネスになる」について、宿泊者以外も無料で利用できるラウンジなど、収益を生まないのに共用部を開放するホテルがなぜ増えているのか?利用者側とホテル側のメリットについて議論する。
(塩田氏)
商業施設においても、共用部とテナント部をシームレスにデザインして抵抗なくテナント部に入れるようなデザインが増えている。ホテルにおいても、まずはラウンジ部に入ってもらい、居心地が良ければそこでコーヒーを飲みたくなるだろうし、まずは敷居を下げてその場所を利用してもらうことが重要。そこでのBARのようなカウンターは、たとえ利用者が少なくても居心地の良い場所として空間デザイン的には機能している。
(寶田氏)
飲み物を注文できる場所がなければ、そこはきっと居心地の悪いものになる。注文したくなればできる環境であることが、ホテルのホスピタリティを演出している。
(YOMIKO)
利用者側のメリットとしては、素敵な空間で時間を過ごしている自分が、ありたい自分につながる。たとえば仕事をして過ごしている人は、“ライフスタイルの延長として仕事をしている自分”というブランディングになるからかも?その場所がカフェとして運営しているのであれば、コーヒー1杯で何時間も居座られてはビジネスにはならないが、宿泊機能があるホテルであれば魅力的なサードプレイスとしての賑わいがブランディングや収益につながるので、経営者も理解しているのではないか。
(寶田氏)
民間で運営していると規制があったり効率を重視したりでビジネスとして成り立たなくてはいけないので実現が難しいものが多いが、国や自治体のサポートを得る仕組みがあれば新たな可能性がもっと広がる。
サードプレイスとしてのホテルの未来に向けた視点
自分が送りたいライフスタイルの舞台装置としてホテルを利用する傾向が強まってきている中、衣・食・住すべての要素が含まれるホテルには今後さらなるサードプレイス・シーンを生み出す可能性があり、期待が高まる。
ディスカッションを通じて、日本人がもっと身近な居場所としてホテルを利用するには、解決しなければならない課題が見つかった。
■日本人にとってのライフスタイル型ホテルを見直す
共通の趣味やテーマがないとコミュニケーションが生まれにくい日本人にとっては、欧米のライフスタイル型ホテルをそのままトレースしても馴染むことは難しい。
しかし、きっかけさえあれば密にコミュニケーションがとれるのが日本人の特徴なので、空間・インテリアデザインだけでなく、運営・ソフト面も含めてコミュニケーションを生むきっかけを作る必要がある。
旅館の女将さんがコミュニケーションのきっかけ役を担っているように、日本人に合ったコミュニケーションの生み方、深め方を活かしたホテルの在り方があるはず。
■気分やシーンに合わせて使ってもらえるガイドラインを作る
ホテルの多様化にともない、目的と機能で選びづらくなくなってきているため、自分に合ったサードプレイスを見つけづらくなっている可能性がある。
サービス内容や特徴を細分化することで自分にとってのサードプレイスを見つけやすくし、ホテルの競合も分散することで、ホテルも生き残れるのではないだろうか。
本件についてのお問い合わせ
都市生活研究所 城
TEL:03-5544-7223
(クリエイティブ局 第3CRルーム 和田 香)